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10月3日開催:Wealth Management Capital Markets Forum報告

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2023年10月3日、Datos Insightsでは、証券ビジネスの最新トレンドに関する1日セミナー:Wealth Management Capital Markets(WMCM) Forumをニューヨーク市で開催しました。ここでは、ウェルス・マネジメント・トラックにおけるパネルディスカッションをまとめてみました。

■ 米国ウェルス・マネジメント業界の事業環境(背景説明)

日本の証券業界では「貯蓄から投資/資産運用へ」や「コミッション・ビジネスからフィナンシャル・アドバイス事業(フィー・ビジネス)への転換」が大きな課題だが、米国では下記のような状況下、新たな課題が生まれている。

(現状)

・米国では、個人金融資産の50-60%が証券口座に預けられている。

・大手証券会社の個人預かり資産の35-50%が、フィー・ベースの資産管理口座に預けられており、残りは手数料ゼロの証券口座(セルフ・サービスでの証券取引顧客やアドバイスなしで資産形成を進める顧客が利用)となっている。

・フィナンシャル・アドバイザー(FA)にフィーを支払い、アドバイスを受ける顧客は、概ね金融資産100万ドル以上の富裕層である。ただこの顧客層でアドバイスを望む顧客の大部分は、既に資産管理口座(フィーベース口座)を開設しており、事業の伸びは鈍化している。

(課題)

上記のような状況から米国のウェルス・マネジメント企業は、以下のような問題意識を持っている。

・金融資産が100万ドル未満のマス・アフルーエント顧客にもアドバイスを提供したいが、どのようなサービスをどのような料金で提供すれば顧客が満足し、かつ証券会社も収益化できるのか。

・既存富裕層顧客とのリレーションを深耕してサービス対象を家計全体/家族全体へ拡大し、同時に次世代顧客の取り込みにもつなげたいが、どのようなアプローチが有効か。

■ フォーラムで話し合われた話題

前述のような事業環境/問題意識を背景に、WMCMフォーラムでは、ウェルス・マネジメントに関連する8つのパネルディスカッションが行われ、その主要テーマは以下4つだったと考える。

(1)フィナンシャル・プランニング(リタイアメント・プランニング)

・これまで退職した世代は企業年金/公的年金をよりどころとしていたが、ベビー・ブーマー世代(団塊の世代)は401kを主たる退職資金とする最初の世代となる。

・この世代向けのフィナンシャル・アドバイスは、これまで「効果的に資産運用を行ない如何にして退職後に備えるか」だったが、退職に伴い、今後は「貯めた資金を枯渇させずに、如何に退職後の生活を賄うか」にシフトする必要がある。

(2)CRM(Customer Relationship Management)

・CRMは営業サポート・ツールのイメージが強いが、FAの生産性向上と顧客のエクスペリエンス向上を両立させ、預かり資産の拡大と次世代顧客とのリレーション構築に役立てる必要がある。

(3)マス・カスタマイゼーション

・モデル・ポートフォリオやダイレクト・インデックシング等、多様な顧客ニーズに対応でき、かつローコスト化/スケーリングが可能な仕組みを確立する必要がある。

・そのようなサービス(サービス内容と提供手段/チャネル)が定着すれば、マス・アフルーエント顧客にも応用できるはずだ。

(4)AI活用

・注目度は高いが、まだ社内での活用やPoC段階が多く、また、どの程度の投資が適切なのかのコンセンサスも得られていない。AIの本格活用にはもう少し時間が必要だろう。

・顧客向けサービスへのAI活用は、金融規制当局のガイドラインが必要である。

■ 日本での情報活用

日本のウェルス・マネジメント事情は、米国の20-30年遅れと言われているが、米国のWM業界も多くの回り道をして、現在の状況にたどり着いている(フィー体系や顧客ポートフォリオの管理方法など様々な面で紆余曲折があった)。この間、新たなテクノロジーも多数登場している(AIやデータ活用への注目、CRMの進化、ロボアドバイザー、モバイル機器の普及など)。加えて、日米では、レギュレーションや税制が異なり、ビジネス慣習、顧客の期待値も違う。これらの違いを踏まえた上で、米国の過去の経験や現在の動向を参照することは、日本のウェルス・マネジメント事業にも役立つと考えるがどうだろう。